
2006年初夏の日の日記。
京都に来て数ヶ月経った。久しぶりに予定のない休日。一人暮らしで誰とも喋らない一日は、なんだかソワソワしてまだ慣れない。
ベランダに出て外を眺めてみる。眺めがよくて入居を決めたこの部屋。奥には送り火で知られる山、すぐ下には有名なお寺に続いている道がすっと伸びているのが見える。これぞ憧れていた京都という感じ。
でもそんな有名どころだけじゃなくて、朝十時に開く小さな和菓子屋、地元にはなかったスーパー、半熟玉子がおいしいラーメン屋、特別な日に行く洋食屋、河原町にでるとき使う最寄のバス停……生活を共にするあれこれが、ガイドブックには載っていない、私の暮らす京都、みたいな輪郭を形作りはじめていた。

マンションのすぐ下を小川が流れているのも、別に京都ぽくはないけど、ここからの眺めで好きなポイント。ときどき橙色の果実が流れてくるのが気になっている。
なんだか暇すぎて、どこからこの果実が来るのか調べてみようか? と思った。
せっかく憧れていた京都に来たけど、観光名所を一人で回るのは、まだ緊張する。出不精で怖がりで、方向音痴な私にとって、京都に出てきて一人暮らしするだけでも、結構思い切った決断だった。
そんな私でも、今ふと思いついた、ちょっとした冒険くらいなら行けるかもしれない。

自転車で、川に沿ってゆるゆると走りだす。
いつも使う西大路通りから一本入っただけなのに、ゆったりした雰囲気。少し行くと民家の庭に橙色の実が見えて、あっさり謎が解決した。これじゃ冒険にならないなと思い、もう少し川沿いを走ることにした。途中で川沿いに道がなくなり、仕方なく川を離れ、一条の妖怪ストリートを通りすぎ、さらに上っていく。
せっかくなので北野天満宮まで行ってみることに。京都に来たばかりのときにサークルの新歓かなにかで訪れたあと、行く機会がなく久しぶりだった。
自転車を降りて境内へ。おなじみの牛を撫で、歩いていくと、木が青々と生えたスペースがあり門が開いていた。こんな場所があるなんて、以前は気がつかなかった。他の世界への入り口みたいで、ちょっとドキドキする。大学生にもなって、なに子どもみたいなことを、と別の自分がつっこみつつも、中に入ってみる。
観光客らしき二人組が遠くに見えるだけで、他は誰もいない。なんだか本当に別世界に来たみたいで、思わず立ち止まってあたりを見渡した。緑の間にちらちら光るものが見えて、水が流れている音がする。川?
自分の家から追いかけてきたなんでもない小川は、天満宮の中を流れる川に繋がっていたらしい。森の間を川が流れている景色は、ちょっと幻想的だった。

……冒険にキリがついた気がした。
西大路通りを下る。冒険は終わり、いつもの日常。車が行き交い、スーパーの袋を持った買い物客が横断歩道を渡っている。途中のコンビニでお弁当とお茶を買って帰った。
京都だから、ちょっとした散歩も冒険になって。
京都でも、ちょっとつまらなくて退屈な日常があって。
そんな一日だった。
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koala
エッセイや小説を書いています。20-30代女性向け、育児のこと、日々のこと、思ったこと、思い出したこと。紅茶とファンタジーと星占いが好き。